<用法容量を守りましょう>
エオルゼアには多様な種族が暮らしいている。ヒューラン族が比較的多数を占めるが、その他にもエレゼン、ルガディン、アウラ、ミコッテなどが同じ生活圏にいた。ララフェル族が飛び抜けて小さく、ルガディンもまたその他の種族より縦にも横にも大きい。
このルガディンに比べてしまえばサイズ的な種族差が少ないような気もしてしまうが、身長の高いエレゼン族とやや小柄なミコッテ族では歴然とした体格差がある。スフェンはヴァリと普段から行動を共にしているためそれに慣れてしまっていたが、改めて見ると自分達は結構な大きさの違いがあるのだと感じていた。
買い出しのため並んで歩くヴァリを見上げる。ウルダハの商店が連なる道にはたくさんの商人や買い物客がいるのだが、その中でも彼は頭一つ抜けていた。エレゼンの中では特に大きくも小さくもないと本人は言うが、スフェンは首を上向きにしないと顔が見れない。そういえば彼はよく屈んでいるな、と日頃のやり取りを思い出した。
足の長さ、腰の高さ、肩の位置、体の幅。ヴァリはその何れもがスフェンより二回りくらい上である。
異種族だから仕方がないと頭では理解しているのだが釈然としない。それもこれも、昨日ハンナに言われた一言が原因だった。
その日の編成はスフェンとヴァリ、エドヴァルド、ハンナ。大きな三人に囲まれてのダンジョン攻略だった。
『道合ってる?』
同じような景色の続く洞窟だったため途中で道が分からなくなり、スフェンが広げて持つ地図を三人で囲んで覗き込むかたちとなった。スフェンの真後ろにヴァリ、その左右にエドヴァルドとハンナが並ぶ。
自分の丁度頭上で飛び交う会話にスフェンが無意識に耳を下げると、それを見たハンナが無邪気な口調で笑う。
『ふふ、すーさんちっちゃくて可愛いね』
本人は横の二人に向かって内緒話のつもりで言ったようだが、当然ながらスフェンにも聞こえていた。下がっていた耳が片方跳ね上がる。
ヴァリはハンナに同意してうんうんと肯いたが、エドヴァルドだけは青い顔をしてミコッテ族の中でも大きな体躯を持つ青年の顔色を伺った。スフェンはハンナに悪意がないのを理解しているため何も言わなかったが、ヴァリの背中を叩いてずんずんと先に進んでいった。
そんなやり取りがあったため、スフェンは昨日から自身の体格とヴァリの体を比べては小さく舌打ちしていた。比較対象が大きいだけで自分は小さくない。内心でそう吐き出しながら、あくまで表面上は何事もないように三十一センチという身長差に頭を悩ませていた。やはりエレゼンから見ればミコッテは小さいと感じるものだろうか。
少し考えてみれば二人のウェイト差は明らかで、しかしそれを強く意識せずにいられたのは一重にヴァリのおかげだった。常日頃から恋人が自分に対してどれだけの配慮をしているのかをスフェンは痛感する。歩く歩調もしかり。こうして同じ速さで歩みが揃うのも、彼がスフェンの歩幅に合わせてくれるからだ。
思えばこれだけの体格差で閨事が成立しているのも、ヴァリによる努力の賜物である。最初の頃はその圧迫感と大きさに戸惑ったが、ヴァリが執拗なまでの丁寧さで解し時間をかけて事を及ぶため、スフェン自身驚くほど慣れるのが早かった。そうでなくとも、彼はとても『巧み』なのだ。おまけに苦心する事があったとしてもそれをスフェンに悟らせない器用さもある。
しかしだからこそ彼に無理や我慢を強いているのではないかと不安を抱かずにはいられない。自分だけが一方的に合わせてもらう状況は、スフェンの本意ではなかった。
スフェンはミコッテの中でいえばかなり大柄な部類に入る。冒険者として鍛え上げた肉体にはそれなりの筋肉もついており、体の頑丈さには自信があった。その上で同じ男同士なのにまるで壊れ物のように扱われるのは不本意だ。そんな気遣いをするくらいなら、素直に求めてくれた方が分かりやすいし嬉しかった。
一緒に暮らして分かったが、ヴァリは相手に求めたり、自身の主張を前面に出すのが苦手なようだった。きっと何か思うところがあったとしても、彼は具体的な言葉にはしないだろう。
日常生活でも、仕事でも、パートナーなのだからもっと自分に求めて欲しい。頼って欲しい。いつも自分ばかりが気を遣われているようで、スフェンは現状に一抹の悔しさとも寂しさともつかない気持ちを覚えた。
*
その晩、珍しくスフェンが一緒に風呂へ入ると言ってきたので、ヴァリはこれを快諾した。風呂場でスフェンがピンク色の耳の内側を拭っている様を見て、可愛らしい仕草につい口角が上がってしまう。バスタブの縁に肘を突いて眺めていると、ゆっくりと彼がこちらに振り返る。視線が鬱陶しいと怒られるだろうなと思われたが、予想に反してスフェンは微妙な反応しかよこさなかった。
スフェンが体を洗い終わったので、今度はヴァリが入れ替わりに湯船から上がる。手だけはテキパキと動かして髪と体を洗いながら、頭では別のことを考えていた。
(今日はこのままする流れかな)
風呂に入るとなった時点で何となくスフェンはしたいのだろうかと察した。
だが、それならば先ほどから突き刺さる視線にはどんな意味が含まれるのだろう。微笑ましく眺めていただけの自分とは違って、スフェンからは責めるような明確な意思を感じる。ヴァリはその理由を探して記憶の棚を漁った。
(なんか怒ってる?頼まれていた屋根の修理はやったし、買い物もリストにあるやつ全部買った。報告書は……急ぎじゃなかったはず)
最後は若干自信がなかったが、特に思い当たる節はなかった。
「ヴァリ」
「あっ、うんっ」
考え事に集中しているときに名前を呼ばれたのでびっくりしていると、湯船に浸かっているスフェンがちょいちょいと手招きしてくる。手早く泡を流して椅子ごと近寄ると、張り付いたヴァリの前髪を払ってスフェンが額に口付けてきた。どうやらもうスイッチが入っているらしい。
お湯を滴らせながらバスタブから出てきたスフェンは、深い口付けを交わすとするすると唇を滑らせてヴァリの喉元を甘噛みしていく。彼とこうした関係になるまで感じたことはなかったが、ヴァリはスフェンに歯を立てられるたびに弱い快感を拾うようになってしまっていた。
(う〜ん、擽ったい)
お返しとばかりに濡れた尻尾を優しく掴んでやわやわと手の中で愛撫する。スフェンの腰がビクリと跳ねて震えた。
(ここでするのは無理かな。ベッドまで行かないと)
潤滑油の類は寝室に置いてあるので、この状態で続行とはいかない。スフェンの体にかける負担は最小限にしたいため、念入りな準備をしてからでないとヴァリは安心できなかった。
「……ベッド、行こうか」
ヴァリはスフェンを促して椅子から立ち上がろうとした。しかし、その両肩をやんわりと押さえ付けられる。
「いや、このままする」
「え、でもここじゃ……」
浴室では情事に及ぶために必要な物がないと訴えると、スフェンは目線を斜め下に逸らしながら細い声で呟いた。
「問題ない……今日はもう準備してきたから…………」
頬が赤く上気しているのは、浴室の熱気だけが原因ではないだろう。スフェンが恥じらいながら言った事実に衝撃を受けて、ヴァリは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「え!?本当に?スフィ自分でやったの?」
「柔らかくはなってる……はず……」
口の中でもにょもにょと喋るスフェンの話を要約すると、風呂に入る前にある程度の準備は済ませてあるのでこのまましても大丈夫だと思う、とのことだった。
スフェンはヴァリとの行為に割合積極的だが、ここまでの姿勢を見せることは滅多にない。ベッドまで抑えようと思っていた体の熱が一気に高まってしまったのをヴァリは感じざるをえなかった。
「だからいいだろ、ここで。ほら……」
「でも……」
「俺がいいって言ってるんだから、四の五の言うな」
スフェンはヴァリに跨ると、主張を始めていたヴァリ自身を迎え入れようと後ろを広げてゆっくりと腰を下ろす。
「ん……」
少しきつそうだが、本当に入っていくのを確認してヴァリは頭を抱えたくなった。スフェンの体内はいつも以上に熱く、また言った通りきちんと準備をしてきたのか本来はない潤みを帯びている。
「スフィ、それじゃ大変でしょ。ね、ベッド行こう」
体格の都合上、腰を下ろしきる前に奥にぶつかってしまうため、このままではスフェンが大変だろうと諭したが、当の相手は別のことが気になっているようだった。
「やっぱり……全部は入らないか」
「嘘、全部入れようとしてたの?スフィが怪我する!絶対ダメ!」
まさかそんな事を考えていたとは露とも知らず、ヴァリは慌ててスフェンを制止した。六割ほどまで入っていた自身を抜かせると、膝の上に座ったスフェンは苛立ったように尻尾でヴァリを叩く。
体の構造上、通常の行為ではスフェンの身の内にヴァリ自身を全て挿入する事は不可能だ。当初情事に及んだ際、ヴァリは押し倒した体の大きさと怒張する自身の大きさを比べていち早くそれを悟った。一応その方法がなくはないことは知っていたが、曰く相当相手の体に負担を強いることになるので、やるなら慎重に行わなければならないらしい。
もちろんいつもの行為で充分すぎるほど気持ちいいのだが、ヴァリとて男であるため試してみたらどうなるのかという好奇心めいた気持ちはあった。だがスフェンと体を重ねるからには、彼に無理をさせるのは避けなくてはならない。自分が加減しないと、怪我をしたり痛い思いをするのはスフェンなのだ。
「準備してくれたのにごめんねスフィ。でもやっぱり風呂場は止めよう。オレが身動き取りづらいし、危ないから」
浴室のタイルの上に寝かせたら背中が痛いだろうし、かと言ってこのままスフェンに任せたら無茶な挿入をしかねない。立ったまま事に及ぶためには身長差がありすぎた。
「……余裕だな」
「そんな事ないって。いつも精一杯だから」
今日のスフェンは妙に食い下がる。ヴァリを見つめる瞳は揺れていて、彼に何か思うところがあるのだと伝えてきた。
「いっつもお前は俺の事ばかり。全然自分はどうしたいか言わないし……」
「スフィ?」
向き合うスフェンの髪から水滴がぽたりと垂れる。
「俺はお前が思ってるほど小さくないし脆くもない。結構頑丈だし、例え何かあったとして自分で対処できる」
「えっと……」
「つまりだ、何が言いたいかというと……お前ばっかりが我慢する必要はない、って話をだな……その、もっと好きにしていいって言ってるんだよ」
「……スフィ、自分が何言ってるか分かってる?」
尋ねると頬を赤く染めたままスフェンは控えめに頷く。その姿を見てヴァリは顔を手で覆った。
「それはまずいよ……。スフィに怪我をさせない保証ができない」
口ではそう言ったヴァリだったが、先ほどから妙な飢餓感が拭えなかった。腹を空かせた状態で、ご馳走の皿を前に「待て」と言われた気分だ。
「怪我なんて大したことない。自分で治せるし、それに仕事してるときの方がよっぽど酷い怪我してるだろ」
しばらく同じような押し問答を繰り返し、何かあればすぐに止めるという条件でようやくヴァリの自制心は折れた。
「本当にいいの?」
「しつこいな。いいって言ってるだろ」
「いてっ」
嗜めるようにスフェンがヴァリの耳に噛みつく。そして唇を押し当てたまま、直接鼓膜に吹き付けるように囁いた。
「ほら、好きにしろよ」
ヴァリが恋人の事をこんなに恐ろしいと感じたのはこの時が初めてだった。
*
スフェンが壁を背中で支えにできるように椅子を前に移動させてから、ゆっくりと中を割り開く。浅い場所を行き来しながら突けば、次第に二人の呼吸は早くなっていった。
そうして少しずつ腰を進めていくと、壁のような場所にヴァリの先端が当たる。奥に当たるとスフェンはやや苦しげに身を捩らせた。
「スフィ、首に掴まって」
「ん……」
両手が首に回るのを確認して、ヴァリはスフェンを下から持ち上げた。スフェンの体は完全に床から浮いていて、ヴァリの腕に支えられている。壁に押し付けるような体勢になると、より圧迫感を感じるのかスフェンは顔を歪めながら苦しげに息を漏らした。
「は、」
「大丈夫?」
「問題、ない」
ゆっくりとしたテンポで揺さぶっていくと、徐々に慣れてきたのかスフェンから殺しきれていない嬌声が上がり始めた。
「ん、……あぅ、ん、」
「気持ちいい?」
「あ、いちいち、ん、聞くなっ」
とりあえず大丈夫そうだと思って、ヴァリはホッと胸を撫で下ろした。好きにしてもいいのだと許されても、葛藤はある。
「スフィ……」
胸が当たりそうなほど近い距離で身悶えるスフェンを目の当たりにしていると、苦しくて申し訳ないと思いつつ唇を合わせてしまう。
火の灯った蝋燭のように、理性が少しずつ溶けていく。濡れた肌が触れ合うほど、これ以上もっと近くにいたいと小さな願望がヴァリの中で芽生えた。
いいのだろうか。さらにスフェンを欲しても、許されるのか。
ヴァリとて聖人ではない。好きなだけどうぞと言われれば吝かではなかった。
「スフィ、力抜いて」
「……?……ん」
ヴァリが念を押すような口調で言うので、スフェンはキツかったのだろうかと首を傾げつつその言葉に従って素直に体から力を抜いた。
腰や足を支えるヴァリの手に力が入る。ごくりと唾を飲み込む音が浴室に響いた気がした。
「ちゃんと息しててね」
「へ、何が……ん"にぁ"っ」
一番奥だと思っていた場所のさらに奥深く。熱い塊が侵入してくる。感じた事のない内臓を押し上げる圧迫感と、視界が白むような衝撃にスフェンは仰け反った。
「はっ……は、……」
「やば、っ」
体に走った衝撃をやり過ごそうとスフェンは浅い呼吸を絶えず繰り返す。その度に細かな振動が中のヴァリに伝わり、快感の波が押し寄せた。
「あっ、んあ"っ」
スフェンの自重も手伝って、ヴァリ自身がどんどん沈んでいく。ついにはほとんど完全にスフェンの中へ埋まってしまった。
「きっつ……」
常にない締め付けと途中で引っかかるような感触にヴァリは呻いた。同時に、初めてなのに思ったよりも抵抗なく奥まで挿入できてしまったことに驚きを隠せない。加えて、スフェンは自ら準備をしてきたらしいが、浅い部分に入れた当初から普段よりも柔らかく湿り気を帯びている事がヴァリは気になっていた。
「は、ぁ、……スフィ、何かの薬とか使った……?スフィ?平気?」
「〜〜っ、」
質問に対する返事はない。スフェンはぴくぴくと痙攣するように体を震わせ、荒い呼吸をしながら快感の余韻に耐えているようだった。
(これまずいんじゃ……)
風呂場に下ろすことも憚られたため、スフェンを担いだまま何とかベッドまで辿り着いた。一歩踏み出すたび首に縋り付いたスフェンが細い声で鳴きながら締め付けてくるものだから、ヴァリは奥歯を食いしばって懸命に意識を保った。柔らかいベッドの上にスフェンを横たわらせた際も、自然と自身が引き抜かれていく感覚に声が出そうになる。
「っ、スフィ一回抜くよ、やばいから……」
聞こえているか微妙だったが声をかけてみると、ぐったりとしたスフェンが力なく首を横に振った。
「今日はもう止めよ?これ続けたらオレが駄目だ。抑えきかなくなりそうで……」
絡みつく体内の熱が今にもヴァリの意識を壊しそうだった。
頭の中はスフェンの事でいっぱいだ。可愛い、触りたい、抱き締めたい。思考がぐるぐると回る。自分が今まともに話せているのかすら怪しいとヴァリは思っていた。
しかし、自身を抜こうとしたがスフェンの両足が後ろからがっちりとヴァリの体を押さえつけているため、これ以上腰を引くことができない。やんわりと太腿から剥がそうとしたとき、熱が篭ってぼんやりとした目でヴァリを見上げるスフェンと視線が絡んだ。
「…………ヴァリ」
首に回る腕に引き寄せられた。スフェンがヴァリの薄い唇をぺろぺろと舐めて強請る。
「動いて……」
「え、でも、う……」
スフェンの体の奥が締まると同時に、肩甲骨あたりに爪が立てられた。
「ヴァリ」
「……止めて、オレの事試さないで」
ヴァリの苦悩とは裏腹に、スフェンはそれこそ気分の良い猫のようにぐるぐると喉を鳴らして唇に吸い付いてくる。
「大変なのはスフィなんだよ?ん、」
「んぅ、」
「スフィ、駄目だってば……」
拒む声も次第に弱くなっていく。キスをするたび背筋に痺れるような感覚が伝って、スフェンの誘いに抗う力が奪われていくようだった。
薄暗い部屋の中でも光ったように見える藤色の目が、蕩けていつもより濃い色に見える。
「好きにしていいって、……言っただろ」
それが思ったよりも真剣な眼差しだったので、ヴァリも折れるしかなかった。
「ずるいなぁ……」
そんな風にすべて受け入れないでほしい。全部許されたような気になってしまう。ほんの少しだけ自分勝手にしてもいいと、思ってしまう。
「あ……」
「……動くよ」
スフェンが頷いたのを確認してから、彼の腰をしっかりと掴む。なるべく苦しくない位置を探りながら緩急をつけて腰を動かすと、一突きするたびに嬌声が上がった。
「あ"っ、い"っ」
灯の乏しいベッドの上で白い肢体が跳ねるのを眺めていると、とても悪い事をしている気分になった。
無意識に普段のスフェンの姿と比べてしまっているせいかもしれない。こんな時に限って露出の少ない装備を着ているところばかりが思い浮かんだ。一部の隙もなく着込んだ衣服の下にある体が身悶える様を知っているのは自分だけだと思うと、優越感と罪悪感の両方に苛まれる。
スフェンが苦し気に吐息を乱しながら枕を握り締めていたので、慰めるように目尻や頬に口付けを落とすと、一生懸命それに応えようとしてくるのがいじらしかった。
「ん、スフィ……スフィ……」
「んぁ"っ、ゔぃ、はぁ」
それまで力んでいたスフェンの体から、だんだんと力が抜けていくのを感じる。弛緩した脚を片方抱えると、壁に映る脚の影がゆらゆらと揺れるのが視界の端に見えた。
抜き差しする速度が早くなっていくにつれ、スフェンの喘ぎ声が寝室に響き渡る。
「あっ、はら、あづいっ。いあ"っ」
「ごめんねスフィ、苦しいよね。もうちょっとだけ辛抱してっ」
「う、ひぁっ」
常なら触れないような奥の奥。柔らかい内臓を傷付けないようにそこを何度も穿った。先端が引っかかると気絶しそうなほど腰に重たい快感が走る。我慢もそろそろ限界に近い。二人とも全身汗だくで、息も絶え絶えの有り様だった。
体の奥から熱が湧き上がってくるのを感じて腰を引けないかと試したが、スフェンが薄っすらと残った理性の狭間でそんなヴァリを止めた。
「このまま……あ、イって……ん、んっ」
「スフィっ……」
こんなにも奥で出してしまったら体にどんな影響があるか分からない。そう言おうとしたのを知ってか知らずか、スフェンの内側が搾り取るように収縮する。熱いうねりがヴァリを包んで、離れないとでも言うように吸い付いてきた。これには堪らず体を震わせ、スフェンの中で達して白濁を注いでしまう。
「〜〜〜ぁっ♡」
一際高い嬌声が上がって、スフェンの瞳が見開かれた。目尻に涙の粒を溜めながら、痙攣するようぴくぴくと動いている。
(やば……一瞬飛んだ……)
射精した瞬間、意識が遠くに引っ張られる感覚がしてヴァリは頭を勢いよく振った。
「あ、スフィ……大丈夫……?」
「……?……ぁ?」
スフェンの方は意識が半分飛んでいるようで、未だ荒い呼吸のまま焦点の合わない瞳で不思議そうにぐったりとしている。
ヴァリが慎重に自身を引き抜くと、今度は何の抵抗もない。スフェンの内股を伝う体液がいく筋もの跡を残していた。
「あれ、もしかしてスフィ……」
前を確認したが、スフェン自身はくたりとしていて何も出ていなかった。しかし、彼の様子からしてヴァリとほぼ同時に達したのは確かだ。
「まさか出さないでイったの……?」
茫洋とした瞳のまま、訳も分からないといったふうにスフェンはただ頷いたのでヴァリは天を仰いだ。
*
翌日、スフェンが事前に用意していた錬金薬のおかげでなんとか腹の平穏は守られたが、体の痛みと喉の調子だけはどうにもならなかった。仕事はすべて後回し。掠れた音しか出ないため、リンクシェルの応答もすべてヴァリに任せて一日安静にするはめになった。
ベッドから動けないスフェンは、時折もぞもぞ寝返りを打って呻いている。ヴァリは甲斐甲斐しく世話をしたが、あんな事になってしまったためスフェンの顔がまともに見れなかった。昨夜の表情がまだ脳裏に焼き付いているのもよくない。
「スフィごめん……」
『もう謝るな。俺がいいって言ったんだ』
声が出ないため筆談で話すスフェンの目元は赤く腫れていた。痛々しい姿にヴァリの心はチクリと痛む。
『……まぁ、腹上死するかと思ったから、あれは頻繁にやるもんじゃないな……』
「ふくじょうし」
スフェンは予想以上に乱れてしまった自身を恥じ、ヴァリは自制のきかなかった自分を振り返ってぐっと唇を噛み締めた。