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<春のサイクル>


「はあ…………」
 常になく悩ましげな吐息を吐き出して、スフェンはキッチンカウンターに片手を突いた。足下がふらついて仕方がない。まるで熱病にかかっているように頬は紅潮し、肌は汗ばんでいる。
(何でだ……いつもこんなひどくないのに……)
 体の奥から疼きが全身に広がる。それは痛みにすら思えるほど強烈な感覚だった。
 そしてとうとう耐えきれず、スフェンはソファに倒れ込む。嵐が過ぎ去るのを耐えるよう、水の膜が張った目をゆっくりと閉じた。
(ヴァリを追い出しておいて正解だった……)
 ここにはいない恋人の事を考えてしまって、また疼きが酷くなった。



 それは若いミコッテ族の男性にとっては至極当たり前の生理現象だった。個人差はあるが、思春期を迎える十代くらいを境に初めて起こり、以降は老年になるまでの付き合いとなるその症状を「発情期」という。
 これは動物が一定の周期をもって番を求めるように、性的欲求の高まる期間のことを指し、ミコッテ男性の遺伝子に残った大昔のサイクルである。
 とは言っても、見境なく欲情するようなことはなく、ほとんどは自己でコントロールできる範疇だった。自らで発散するか、妻のいるヌンであればそれはそのように、独り者のティアは風俗店などの世話になる者もいるらしい。余程ひどくなければ日常生活にも支障をきたすことはなかった。
 スフェンもまた、一般的な成人ミコッテ男性である。青年になって何度か発情期を迎えてきた。
 彼の場合は「なんだか体がむずむずするな」程度で、今までさほど困るような状況にはなったことがない。だいたいは我慢すれば何とかなったし、どうしてもという時は宿屋に篭って一人で処理すればすぐに熱は治まる。ただ、事後の妙にスッキリとした感覚のあとに訪れる冷静な気持ちは少し嫌いだった。
 だからスフェンは出来るだけ耐えるという方法でやり過ごすことを選択している。しかしながら、今回の発情期はこれまでと比べものにならないほど深刻だ。
 最初はいつもの予兆があり、尻尾の付根から痺れるような感覚がした。また、その段階で発情期に入りそうだなと感じたので、家を改装するという名目でヴァリを追い出し、今はFCハウスに泊まらせている。少し苦しい理由だったのでヴァリは怪訝な目でこちらをじっと見ていたが、彼が嫌がらないのをいいことに半ば強引に放り出した。しかし、一日も経たないうちにこの選択が正しかったことをスフェンは身をもって思い知る。
 初日は家事をしながら持ち帰ったいくつかの書類仕事をひっそりと片付けていたが、特にこれといって普段の発情期と変わらない生活を送れていた。数日の間は自宅を改装するため休むと連絡を入れてあるので、しばらく来客の心配もない。いつも通り一人きりで我慢すれば問題ないと思っていた。
 だが変化は急に訪れる。二日目の昼間、痺れるように強烈な体の疼きがスフェンを襲い、彼はその場に崩れ落ちた。
(何だコレ……!?)
 体温が徐々に上がって、触れてもいないのに体の中心が熱を持ちはじめる。抑えつけるように自分の体を抱きしめると、肩に触れただけなのに剥き出しの神経を撫でたようにおかしな感覚がした。
「ふぅ、う、」
 何故だろうかと疑問が頭を渦巻く。その一方で、思い出されるのはヴァリとの情事だった。
 彼の手が、指が、唇が、スフェンの全身を余すことなく触れていく。それに引出された甘い痺れを体が覚えている。今まで知らなかった快感が、スフェンの体を少しずつ変えていた。



(ヤバい……こんな、あと数日耐えられるか……?)
 ソファに横たえた体は震えていた。スフェンは発情期が始まってからはずっとここで寝ている。寝室のベッドでは寝られないのだ。あそこで寝ているとヴァリの匂いがして、寝るどころではなかった。
 病気の類ではなくあくまで身体的サイクルの一環なので、どれだけ酷くとも数日のうちには熱が引くことは分かっている。それでも、強すぎる感覚に耐えられる気がしなかった。
 本当は今すぐにでも楽になりたい。熱く蕩けて、理性を手放して、ただ獣のように快感を追えたらどんなに良いか。しかし、スフェンの強固な自制がそれを拒んだ。
(ヴァリがいなくてよかった……)
 もしも今目の前にいたら、引き倒して無理やり情事に及んでしまうかもしれない。恋人とはいえ、それではまるで強姦ではないか。
(そんなの絶対嫌だ……)
 でも、耐えるのにも物理的に限界が近かった。下履きの前が窮屈で仕方がない。痛みと圧迫感で額にはじわりと汗が浮いている。
 スフェンは眉根を寄せて苦悩の表情を浮かべたあと、震える指でベルトのバックルに手をかけた。金属の触れ合う音が密やかに鳴り、それすら快感への期待に変換されていく。
「んっ…………」
 前を寛げると布と擦れて思わず声が出た。誰も聞く者はいないが、それでも羞恥を感じてスフェンの頬や首は朱色に染まる。
 邪魔なシャツの裾をたくし上げ、下履きから取り出した自身は熱く脈打っていて、開放の時を待ってすでに涎を垂らしていた。
「まずい、汚れるっ……」
 慌てて体を起こして近くに置いていた洗濯カゴからタオルを一枚掴んだ。へろへろになりながらも早めに取り込んでおいてよかったと、こんな状況でも所帯じみた考えが過ぎった。普段通りの生活をしている方が気も紛れる。
 だが適当に選んだタオルがいけなかった。
「あ、ヴァリがいつも使ってる……」
 洗ったばかりだとか、やってはいけない行為なのではとの葛藤はもちろんあったが、争い難い誘惑にかられて、スフェンは探すようにタオルに顔を埋めて鼻をすんすんと鳴らした。
(ほんの少しだけ、ヴァリの匂いが……)
 後ろめたさが勝っていたが、ヴァリの肌の匂いが残っているような気がした時にはそれも吹き飛んでいた。
「は、ゔぁりっ……」
 腹の奥がジクジクと絞られるように痛い。タオルを持つのとは反対の手で自身を扱くと、それまでにしてきたどんな自慰よりも凄まじい官能に包まれ、内臓まで気持ち良さに震えるようだった。
「んっ、う"っ」
 粘度の高い先走りが溢れてスフェンの手をしとどに濡らす。
「はっ……」
 もともとの頻度も低かったが、ヴァリとセックスするようになってからは一人でする事なんてほとんどなかった。久しぶりにする手淫は心地よさと同時にどこか物足りなさを感じてならない。
 最近は自分で触れるよりもヴァリに触られる事の方が多かった。節の目立つ長い指が自身に絡んで、後ろの苦しさを紛らわせるように優しく上下に扱いてくれるのだ。剣だこのできた指に女のような滑らかさはないが、彼の手であるという事実だけでスフェンの中心は熱く滾った。
「んっ、んっ」
 彼の温度や感触を思い出しながら、一心不乱になって手淫に耽った。はち切れそうな己の先端に指先を引っ掛けると、背中にビリビリと電流が走る。甘さを含んだ声が喉の奥から出そうになって、スフェンは慌ててそれを飲み込んだ。
 指を輪の形にしてスライドさせる速さがどんどん上がっている。溢れた体液が指の滑りを手伝っているのだが、粘液と空気が混ざってぐちぐちと音を立てるのでスフェンは眉を潜めた。
「いっ……………!!」
 込み上げてくるものを抑えられず、スフェンは体を大きく震わせてそのまま絶頂を迎えた。受け止めきれなかった精がぱたぱたと革張りのソファに零れ落ちる。
 肩で息をするスフェンだったが、余韻もほどほどに苛立った様子で乱雑に汚れを拭ってタオルを放った。
「あぁ、くそっ……」
 制御できない性欲への苛立ちと、居た堪れないような後ろめたさに、スフェンは腕で顔を覆って呻いた。
 一度達したというのに、全然足りないのだ。もっと熱く、もっと高めて、奥の奥まで貪るような刺激がないと。

(腹(なか)が熱い…………)



 夕暮れ時なのに、いつもと違う帰り道を歩かなければならない。そう考えて随分と胸が締めつけられた。
「もう三日目なのに……慣れないな」
 誰もいないウルダハの回廊で、ヴァリはポツリと呟いた。その言葉を拾う者はいない。
 スフェンの家を改装をするためFCハウスに泊まり始めて三日が経った。毎日シロガネに帰るのは違和感が強くて、家路に着くヴァリの足を鈍らせる。
 今日はたまたまウルダハで仕事を終えて帰るところなのだが、ついいつもの癖でゴブレットビュートへと続く回廊まで歩いてきてしまった。
「はあ……」
 しばらく立ち尽くしていたが、帰る気にもなれず仕方なしに噴水の近くに腰掛けた。どうせ帰ろうと思えばテレポですぐにシロガネには行けるのだ。今は少しだけ一人で考える時間がほしかった。
(あれって絶対嘘だよね……)
 家の改装なんて、言われなくともいくらでも手伝うのに、スフェンは断固としてそれを拒んだ。彼はお世辞にも嘘が上手いとは言えない。何か隠しているのは明白だった。
「オレには知られたくないこと……?」
 言葉にしたら寂しさがどっと押し寄せた。
 ヴァリはスフェンの事がもっと知りたかった。好きな事も嫌な事も、彼に関する事柄を知りたい。もちろん、相手の全てを知るだなんて無茶な話であることは承知の上でだ。それでも出来る限り、彼の事を知りたかった。そうやって、彼に寄り添いたいのだ。
 反対に、スフェンはヴァリの事をとやかく聞かない。でもそのかわりちゃんと覚えていてくれる。ヴァリの好きな料理、行ってみたい場所、戦闘の癖、楽しかった事、辛かった事。とるに足らない些細な会話の中から、ヴァリの欠片を拾い集めて全てを記憶してくれる。
 何も言わずとも、寒い日は寒がりの自分ためにいつもより部屋を温かくしてくれる。仕事の帰りにわざわざ遠回りをして、より新鮮な食材を扱う店で買い物をして料理してくれる。
 彼の気持ちは言葉には現れない。しかし、日常の中にその真意は詰まっていた。スフェンはヴァリの事を、真綿と一緒に箱詰めした宝石にも劣らない手厚さで大事に愛してくれている。
 それでも不安にはなる。急に突き放すような態度を取られたら、ヴァリはそうポジティブに考える事なんてできない。
 自分が色々と足りない事は薄々感じていた。そのせいでスフェンにいつか愛想を尽かされるんじゃないかと考えたのは一度や二度じゃない。
「嫌われたりとか……ううん、そしたらスフィは隠すみたいなマネしない」
 思い立ったように「家を改装する」と言うまでなんの素振りもなかったし、ヴァリはスフェンの愛情深さに絶対の信用をおいている。彼が自分を裏切るような行為をするなんて有り得ない。
「っ、もしかして何か危険な事に巻き込まれてるんじゃ……!?」
 スフェンは何かと一人で抱え込みがちだ。誰にも言えないでいるが、人知れず厄介な事件に関わっているのではないか。
「…………」
 しばし考え込んでから、ヴァリはすくっと立ち上がった。
「……やっぱり家に行こう」
 悩んでいる間にもスフェンが困っているのではないかと思ったら、居てもたってもいられなかった。
 何もなければそれでいい。何をしにきたんだと怒られたら、平謝りして庭の草むしりでも何でもやって許しを乞うとしよう。



 西日が差し込む室内は明かりが灯されておらずとても薄暗かった。窓から降り注ぐ茜色の光だけが目に焼き付くように眩い。
「スフィ……?」
 ゴブレットビュートのスフェン宅に戻ったヴァリは、玄関から一歩室内に足を踏み入れてすぐ異変に気付いた。
 取り込まれただけでソファに散乱する洗濯物。飲みかけのままカウンターに置かれたコップの水。無造作に放置された書類。
 家主のきっちりとした性格を知るヴァリからすれば、奇妙なほど雑然とした状態の部屋だ。おまけに、改装すると言っていたわりに、家の中は最後に見た時から椅子の位置すら変わっていない。
 この時間帯なら夕餉の支度をし始めているはずのスフェンの姿も見当たらなかった。嫌な予感がしてヴァリは階段を駆け下りる。
 階下に下りると、浴室から水の流れる音が聞こえてきた。
(よかった、家にはいる……)
 仕切られたカーテンの向こうにひとの気配がする。それにホッと胸を撫で下ろしたヴァリは水音を遮るように外から声をかけた。
「た、ただいまスフィ。気になったからちょっと様子見にきちゃった……あはは」
 返答はない。ただ、ざぁざぁと蛇口から水の出る音だけが静かな部屋に響く。
「終わるまで戻って来るなって言われたのに帰ってきたから怒ってる……?」
 腹を立てているのかと思って窺うが、これにも返る言葉はない。様子がおかしい事に気付いたヴァリは、そぅっとカーテンをめくった。
「……っ!スフィ!大丈夫!?」
 そこには縋るように洗面台の縁に掴まって座り込むスフェンの姿があった。顔でも洗っていたのだろうか。後ろから見たスフェンの髪は湿っていて、水滴がポタポタと床に滴り落ちている。水が出しっぱなしの蛇口を締めてへたり込む彼の横にしゃがむと、意識はあるようで掠れた声が聞こえた。
「なん、で、おまえ」
「そんな事より今はスフィだよ!具合が悪いの?ベッドまで運ぶけど、抱えても平気?」
「っ、やめ、さわるなっ」
 横抱きにしようとスフェンに触れると、彼の肩が大袈裟なくらい跳ねた。ふーふーと気が立っている動物のように息をするスフェンの様子に戸惑うヴァリだったが、調子の悪そうな彼を放って置くことなどできない。
「ごめん、ゆっくり運ぶからちょっとだけ我慢して。髪も拭こうね」
 タオルを肩に引っ掛けてからスフェンの背と膝裏に手を差し込んだ。持ち上げると腕の中のスフェンが息を飲む。彼はふるふると身を震わせて、今度はヴァリにしがみついた。
「はやくっ、でてけ」
「本当にどうしたのスフィ……顔赤いし、熱ある?風邪ひいたかな」
 ベッドに下ろしたスフェンの髪を拭きながら額や頬に触れる。手のひらに伝わってくる体温はいつもより熱かった。
「風邪じゃないっ……。頼むから放っておいてくれ……せっかく、耐えてたのに……」
 ヴァリを押し返そうとするスフェンの手には力が入っていなかった。
「こんな状態で放って置けるはずないでしょ。お願いだから、もっと頼ってよ……」
 ヴァリの目から見て明らかに様子のおかしいスフェン。潤んだ瞳や紅潮した頬、体はずっと小刻みに震えている。その姿はどことなく頼りなさげに見えて、ヴァリは思わずスフェンを胸の中に抱き込んだ。
「ね、どうしたのか教えて?オレ絶対スフィの力になるから……」
 助けを必要としているのはスフェンのはずだったが、懇願しているのはまるでヴァリの方だった。
 スフェンの身に何かが起こっているのは明らかだ。それなのに突き放すような態度を取られると、どうしたらいいのか分からなくなる。近くにいるはずなのにスフェンがどうにも遠くに感じられて、ヴァリはもどかしさで抱き締める腕に力を込めた。
「…………」
 ヴァリにすっぽりと包まれているスフェンは何かを考えているようだった。目の前にあるヴァリの服を掴んで、言葉を探すように口を開けては閉じている。
 だが、しばらくすると固い面持ちでヴァリを見上げて、言いづらそうにボソリと切り出した。
「今言った言葉、本当だろうな……」
「もちろん。スフィが望むなら、いくらでも力になるよ」
 それを聞いて、スフェンの表情が少し和らいだ。同時に、服を掴んでいた手がするすると伸びて金髪の頭を捉えたかと思うと、スフェンの熱い唇がヴァリの口を塞いだ。
「っ!?」
「んっ、ん」
 どんな展開なんだと驚きに固まっていると、スフェンが舌を出して閉じたヴァリの唇を舐った。口を開けろと催促しているようだ。どうしたら良いものかと考えていたヴァリだったが、恋人が焦れたように眉根を寄せるものだからつい唇を開いた。
「っふ、」
「はふ、んっ」
 いつになく性急で貪るような口付けだ。吐き出される吐息まで啜る勢いのスフェンは、ヴァリが止めなければ唇がふやけるまでかぶりついていたかもしれない。しばらくして口を離すと、透明な糸が互いを繋いでいた。
「はあ、は、すふぃ、急にどうしたの……?」
 スフェンの肩を掴んで引き剥がすと、若干息を切らせてヴァリはそう尋ねた。一方、興奮した様子のスフェンだったが、ヴァリの問いかけにハッとすると、自身の頭を抱えてベッドに蹲った。シーツに押し付けた顔からくぐもった声が聞こえたが、何を言っているかは判然としない。
 ごく稀に彼が仕事で凡ミスをした日の夜、自己嫌悪に苛まれのたうち回っている仕草にそっくりだった。
「す、スフィ……?」
 突然の奇行に疑問符を浮かべるヴァリだったが、スフェンの小さな呟きに耳を済ませていると、次第に彼が何を言わんとしているのかなんとなく理解できた。『発情期』。その単語を拾って、ヴァリはスフェンの異変の原因に思い当たった。
 ヴァリも未だにミコッテ族の習性について全てを知っているわけではないが、男性の発情期については以前噂で聞いた事があった。
「いつもは、こんなんじゃない……少し耐えればなんとかなる。なのに、……今回はかっ、体が変でちっとも治らなくて、それで……」
 ヴァリを追い出したのも発情期が理由らしい。しかし、何日かやり過ごせばいいと思っていたが日に日に体の疼きはひどくなるとスフェンは言った。先程も抑えていたはずなのに、口付けた瞬間理性が緩んだ。こんな痴態を見せるつもりではなかったのだと、常にはない弱々しい声で語った。
「そっか……話してくれてありがとうスフィ」
 ヴァリは蹲るスフェンの頭を優しく撫でた。こんな姿を見られたくなくて無理やり自分を家から追い出したくらいだ。彼の性格を考えれば相当恥ずかしい思いをしているはずだった。
 それでも最後はきちんと教えてくれたのだ。スフェンはそれどころではないだろうが、ヴァリは少し嬉しかった。
「ね、スフィ。さっき言ったよね、力になるって」
 おずおずと顔を上げたスフェンは、柔和な笑みを浮かべるヴァリに対して無言のままコクリと頷いた。ヴァリは握りしめて白くなった彼の手を取って、自分より一回り小さな手を指で撫ぜる。
「辛いならオレが手伝うよ。だってオレはスフィの恋人だもん。一人で我慢なんてしないで。……今日はスフィのしたいことしよう。ね?」
 ヴァリは軽く持ち上げたスフェンの手の甲にちゅっと口付ける。それを見ていた薄群青色の目が熱っぽく細まった。
「……最後まで付き合えよ……」



 スフェンは向かい合って座ると、ヴァリの顔に口付けながら彼の服に手をかけた。急くように前開きのコートを脱がせ、中に着ていたインナーまで剥ぎ取ると、ベルトのバックルも外そうと金属に指を這わせる。
「待って。スフィも先に脱ごうか」
「ん……」
 理性でもって抑えつけてはいるが、スフェンの体すでに相当昂っている状態だった。照明を絞った寝室では分かりづらかったが、よくよく観察すれば履いているデニムの前がキツそうだ。
 ヴァリが脱がせようとしたが、スフェンは自分で脱ぐと言ってカーディガンを肩から落とすと、次いでシャツのボタンだけ外した。ぎこちない手つきでベルトも引き抜くと、もぞもぞとズボンと下着を脱いでベッドの下に落とす。触る前から反応を示している自身の存在が居た堪れないのか、上に羽織ったシャツの裾をしきりに伸ばしたりしていた。
 普段は陽に晒されていない服の下の肌は特に白く、体温が上がってほんのり朱に色づいている。
「……何見てんだよ」
「え〜、可愛いなぁって、いたっ」
「金取るぞ馬鹿っ」
 スパンっと頭を叩かれ、そのまま文句を垂れ流すスフェンにベルトを強引に引っこ抜かれた。
「怒んないで」
 ヴァリはスフェンを柔らかく抱き締めると、口付けながらやわやわと肌を探った。シャツの下から背中、腰、太腿へと手を滑らせ愛撫していく。スフェンはヴァリとは肉質が違っていて、ガッチリ固いというより、柔らかく弾力のある筋肉が体を覆っている。触っただけで俊敏な肉体なのだと分かる。太腿の筋肉に指が沈むのが心地良くてむにむにと触れていると、焦ったいとでも言いたげにスフェンがヴァリの尖った耳を噛んだ。
 スフェンは早くしろと急かすが、あまり性急に事を進めるのはよろしくない。ゆっくりと時間をかけて体を解きほぐしたかった。
 ベッドサイドのローションに手を伸ばしているスフェンの腕を制して、ヴァリは捕らえるようにまた抱き込むといっそう深く口付ける。舌を絡めるとスフェンの腕から力が抜け、次第に目を閉じてヴァリの舌を一生懸命追いかけてきた。
「ん、はっ、んぅ」
「ん……スフィ……」
 口の端からつうっと溢れた唾液が垂れていたので拭ってやると、スフェンは息が苦しかったのか耳を伏せて胸に寄り掛かってくる。
 その後はしばらく体のあちこちを弄って、ほどよく彼の性感を高めていった。ヴァリに体を預けるスフェンは触れられるたびピクリと体を跳ねさせる。
(そろそろいいかな?)
 ヴァリは先程のローションのボトルを手に取ると、スフェンに膝立ちになるよう促した。
「足もうちょっと開ける?……そう、そのまま。少し冷たいよ」
 シャツの裾はやや長いが、尻尾があるおかげで後ろはちょうど良く布が避けられている。ヴァリはボトルの中身を手に取って温めるように混ぜると、濡れた指でスフェンの後孔に触れた。
「ぁ……」
「平気?冷たい?」
 ヴァリの問いかけに対してスフェンはふるふると首を横に振る。その目は期待を含んで水っぽく潤んでいた。
 最初は指一本。中を傷つけないように少しずつ揉むように挿れていく。後孔だけでなく会陰のあたりもマッサージするように触ると、中が僅かに収縮した。
 そうして二本目、三本目と徐々に指を増やしていく。ヴァリが指を深く潜らせるたび、首筋にスフェンの熱い吐息がかかった。
(もう少し慣らした方がいいかな)
 スフェンの後孔はヴァリの指を三本飲み込んでいるが、彼の体のためにも念入りに準備したい。
「も、いいから」
 ヴァリの思惑を悟ったようにスフェンが掠れた声を出す。
「でもしっかり解さないと……」
「充分、んっ、柔らかい、からっ……」
 湧き上がる快感を何とかいなしながら、スフェンはヴァリのジッパーをやや強引に下げた。スフェンは芯を持ち始めているヴァリ自身を下着から取り出し、側に置いてあったローションを自分の手に垂らすと、その手で上下に扱いていく。拙いながらも何とか勃たせようとする様を健気と評するべきか、淫猥すぎると頭を抱えるべきか、ヴァリは大いに悩んだ。
「はっ……もういいだろ」
 スフェンはヴァリの膝に跨り熱を持って固くなった猛りを後孔を当てがうと、短く息をしながらゆっくりと腰を下ろしていった。スフェンの体の大きさに対してヴァリ自身はいささか大きいため、慎重に挿入する必要があった。
「ふ、んっ」
 内側に熱塊が擦れるたび、スフェンは堪えるような途切れとぎれの嬌声を漏らした。潤みを帯びたスフェンの中は、ヴァリを招き入れるためだと錯覚するほどうねっている。まだ挿入の途中だったが、強烈な締め付けに耐え切れずヴァリはつい反射的に少しだけ腰を揺すり動かしてしまった。
「あっ!!!」
 スフェンが目を見開いて体を跳ねさせる。イイところに当たってしまったらしく、一瞬彼の体から力が抜け、その反動で浅いところで止まっていたヴァリ自身が自重に従い奥を穿った。
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ」
 声にもならない悲鳴を上げるスフェン。それと同時に、ヴァリの腹にはスフェンの放った白濁が散っていた。心なしかいつもより精が薄い。彼が数日間どのように過ごしていたのかつい考えてしまった。
「あっ、ばか……きゅ、に……うごくなっ。腹破けるかと、んっ」
 入れただけで達してしまったことに驚いていると、震えるスフェンが声を荒げた。
「ご、ごめんねスフィっ。痛いとこない?一回抜こうか?」
「い、いいっ……このままっ」
 幸いスフェンは怪我をしていないようで、ほっと胸を撫で下ろした。ヴァリにしがみついて射精の余韻に震えている体をあやすように撫ぜると、それだけで感じ入った声が漏れてきた。
「あっ…………………」
 かなり快感を拾いやすくなっているらしい。またスフェンの膝から力が抜けそうになるのを寸でのところで腰を支える。さきほどの衝撃は下半身的な意味合いでヴァリも相当堪えていて、また同様に奥まで入れられたら色々な意味で危ないと感じた。
「ん、もう大丈夫だ……動くぞ」
「え、でも……」
 ヴァリの制止をさほど気にも止めず、スフェンは達したばかりだというのにゆるゆると腰を上下させはじめた。ここでようやく、発情期がどんなものかをヴァリは肌で感じとった。
「んっ……あ、……っ……」
 前立腺のあたりに当たるのが心地良いのか、スフェンは腰を浮かせて浅い挿入を繰り返した。ここ数日分の抑圧された情欲が解放されたためか、快感を追うことだけに集中しているようだ。
 ぼんやりと靄のかかった思考で、スフェンは目の前のヴァリを見つめながら恍惚のまま快楽を受け入れていた。
(きもちい……ゔぁり……ゔぁり……)
 スフェンは吸い寄せられるようにヴァリへ口付ける。
 たった何日か離れていただけ。仕事のときはもっと会わない日もある。それなのに、今日は本当に久しぶりに顔をみたような気がしていた。
 唇を離すと、可愛がるように金色の後ろ頭をくしゃっと撫でる。それに応えるようヴァリが尻尾の付け根を引っ掻くと、スフェンの背筋にビリビリと甘い痺れが走った。
「んっ……!」
 それを合図に、最初よりも早い間隔でスフェンの体が縦に揺れ動く。ざわざわと細波のような心地よさがヴァリを包んだ。
 もうそろそろかというところで内部が締め付けられ、続いてまたスフェンが達する。先程と同様に、さらさらと薄い白濁がヴァリの腹を汚した。
「はぁ、はぁ、はぁっ」
 スフェンは胸を大きく上下させて息をしており、流石に二回連続で吐精してぐったりとしていた。
「スフィ、一回抜くよ」
「ああ……」
 ずるりと熱量のある塊が引き抜かれる感覚に、それすらも感じてしまうのかスフェンは身をこわばらせた。
「ふっ、……」
「大丈夫……?」
 抜き終わったあとベッドに横たわったスフェンは小さく頷いた。肩や首が始めたときよりも赤く染まって、全体的に体が色づいている。
(短い間に結構出たな……)
 タオルで腹を拭うとぬるついた感触が布越しにも伝わる。まるでスフェンの体の興奮具合が分かるようで、ヴァリはぞくりとしたものを感じた。
 一方で、二度の絶頂を迎えたスフェンに対して、ヴァリはお預けをくらっているような状態である。自分に跨っていたスフェンの好きなようにさせていたのもあって、いま一歩のところで快感が遠のいてしまっていた。
(スフィかなり興奮してたし、ちょっと休ませた方がいいかな?)
 正直かなり辛い状態ではあったが、スフェンは未だ絶頂の余韻が引かずに息を乱して横たわっているため、無理をさせるわけにもいかなかった。
 それに、もしかしたら今晩はこれで終わりの可能性もある。情事でスフェンも程よく発散できただろうし、体液を見てもそろそろ限界が近いように思えた。一人悲しく風呂場で抜くか、と若干肩を落としたが、スフェンが満足したなら本望だ。
「ん……」
 すると、息の落ち着いてきたらしいスフェンがもぞもぞと動き出した。寝返りを打つように体勢を変え、こてんとベッドにうつ伏せになる。
「ヴァリ……もう一回……」
「えっ、いや、スフィ少し休んだ方がいいよ……」
 半ばこれで終わりかと考えていたので、ヴァリはスフェンの言葉に驚きを隠せなかった。
「……お前、イってないだろ」
 戸惑うヴァリの手首に尻尾が巻き付いてくる。撫でるようにすりすりと絡みつくそれは、ヴァリを誘おうとしているようだった。
「っ、スフィ無理してないよね……?」
「してない」
 そっぽを向いたまま話すスフェンだったが、ヴァリが背後に回った気配を感じると強請るように「まだ足りない……」と溢した。
「分かった……」
 ヴァリは自分がごくりと唾を飲み込んだのを意識しながら、スフェンの肩から背中にかけて唇を這わせた。
 白い背中は細かな傷はあるものの、ヴァリの体に比べれば綺麗なものだ。新しい傷跡はないかと観察しながら柔らかな肌を吸っていると、夢中になっていていつの間にか赤い鬱血だらけになってしまった。尻尾の根元を吸うと、甘やかな鳴き声が寝室に響く。
「スフィ……腰上げて」
 ヴァリの声に従い、尻尾と一緒に薄い尻が持ち上げられる。先程まで挿入していたため後孔は柔らかかったが、念を入れて指で中の状態を確認すると、熱く蕩けてしまいそうなほどまだ内部は解れていた。
「……っ、指、ちがっ」
 スフェンが枕に顔を押し付けたまま抗議してくる。あまり焦らすなと毛並みの整った尻尾がバシンバシンとヴァリの腕を叩いた。
 苦笑して自分より二回りくらい細い腰を両手で支えると、脈打つ自身を双丘に当てがった。固くぬるりとした感触に、うつ伏せになったスフェンがぶるりと身を震わせる。
「なるべく力抜いて……ゆっくり挿れるよ」
「んっ」
 挿れたばかりだったので、最初よりもスムーズにヴァリ自身は飲み込まれていった。
「あっ……あ……」
「息吐いて、ん、」
 締めつけがきつく、押し寄せる快感にヴァリは眉根を寄せて耐えた。
 八割程度収まったあたりで先端が肉壁に当たって止まる。ここから先に挿れる事も一応可能であると過去の情交で知ってはいたが、発情したスフェンには強すぎる刺激であるとは容易に想像できた。『腹上死』という単語が頭を過って、ヴァリは一人で肝を冷やしてはその考えを払うように頭を振る。
「スフィ、動くよ」
 スフェンの腰を掴む手に力を入れ、彼の様子を窺いながら中を擦るようにスライドさせる。
「ひっ、あ」
 短く途切れた嬌声が鼓膜を撫でる。スフェンは感じているようで、尻尾が左右にパタパタと振れてヴァリの胸元を掠めた。
「気持ちい……?」
「いちいち聞く、なっ、あっ」
 まだ受け答えする余裕はあるようで、ヴァリの問いかけにスフェンは吐息まじりに答えた。
「苦しかったら言ってね……」
 幾度となく夜を共にした経験から、強めに攻めた方がスフェンは好きな事をヴァリは知っていた。ゆるゆるとした挿入から、腰を弱く打ちつけるように奥を穿てば、下から上がる声はどんどん激しくなっていく。
「あ"っ、や、」
 突き上げるたびスフェンの体がベッドヘッド側にずり上がっていくので、固定するように上から覆い被さって体に腕を回した。腹筋の凹凸や喉の辺りを擽るように指で辿ると、中の収縮が僅かに強くなる。絡みつく肉に刺激されて、だんだんとヴァリも絶頂が近づいていた。
 体を抱きとめた状態で挿入すると、いっそう深い場所に当たるのか、スフェンはシーツを握り締めながら善がって背中を反らした。
「い"っ、おくっ、も、ゔぁりっ」
 動くたびに空気と粘り気を帯びた液体の混ざる音が繋がった場所から聞こえる。へたり込んだ白い耳にも届いているのだろうか。音に反応するように時折ピクピクと震えていた。
「スフィっ、イキそ……?イッてもいい?んっ」
「ばかっ、あっ……、そんなっ、ひっ、聞くなっんっ」
 ヴァリの動きに合わせてスフェンの声が飛ぶように跳ねる。最後の方は意味をなさない音の羅列になり、それに比例して中がうねるように締まった。
「く、スフィっ……」
 ヴァリは達する寸前に中から自身を引き抜くと、なんとか体の外で吐精した。熱い飛沫がスフェンの背中や太腿にかかり、しっとりと汗をかいた肌の上を滑った液体がつうっと流れていくのが見えた。
 スフェンもほぼ同時に達したのか、下のシーツがぐっしょりと濡れている。
「はあ、はあ……」
 ヴァリは額に張り付く前髪をかき上げると、体を起こして乱れた息を整えた。ほどよい疲労感に包まれながらベッドを見下ろせば、汗と体液に塗れたスフェンが小刻みに震えている。
「大丈夫……?ごめん、ちょっと無理させちゃったかな」
 うなじに口付けながらスフェンの様子を窺うと、荒い息遣いが漏れ聞こえる前髪の隙間から、ギロリと縦に走った瞳孔がヴァリを見上げた。
「はっ、はっ、外……はっ、出しただろ……」
「うん、ごめんね背中とか汚れちゃった……」
 タオルでスフェンの体についた白濁を拭うと、不機嫌そうに尻尾で叩かれた。次いで何か言いたそうに小さな唇がもごもごと動いていたが、結局は何も言わなかった。
「水飲む?」
「……ん」
 アイスボックスから水を取り出すと、スフェンが腕を伸ばしてくる。起こせ、という意味だ。背中に手を回し抱き上げ、ヴァリの体を座椅子がわりにして座らせた。
 スフェンはボトルに口をつけると、勢いよく水を飲み干していく。
「んく、ぷは……」
「結構汗かいたからね。水美味しい?」
「ん」
 三度達したのもあって、スフェンの熱はほとんど治っているように見えた。流石にあれだけ乱れれば発情期の疼きも鎮まっただろう。
 水を飲み終わると、スフェンはヴァリの胸板に頭をつけた状態で見上げてくる。まじまじと見つめてきたかと思えば、すっと瞼を閉じた。
 キスを強請っているのだと気付いて唇を寄せると、ゆっくりと味わうようにヴァリの舌を食んでくる。
「んっ、ちゅっ」
(食べられてる……)
 しばらくそうして睦み合っていると、スフェンの眼差しがとろとろと眠気を帯びてきた。
「眠い?もうすっかり夜だもんね。お風呂入れそうになければ明日の朝入ろうか」
 ヴァリが枕まで誘導して寝かせて、前髪を払いながら頭を撫でるとスフェンは気持ちよさそうに目を細めた。
(スフィは大変だったかもしれないけど、何事もなくて良かった)
 スフェンの姿を見た際は、最初何か重篤な病かと思って内心とても慌てていた。それも健康な肉体としては当たり前の現象であると分かればホッと一安心だ。
 だが、このまま自分も一緒に寝てしまおうと瞼を閉じかけたとき、それまで大人しくしていたスフェンがヴァリの首に腕を回してきた。
「スフィ……?」
「ん、続き……」
「え!?まだするの?」
 驚きで呆然とするヴァリを尻目に、スフェンは頬や首筋に吸い付いたり噛み付いたりしていく。
「いたたっ、でもスフィだいぶイったし、疲れたでしょ?」
 現に最後は水のような精液しか出ていなかった。これ以上は限界だろうにと諭すと、スフェンは視線を彷徨わせて「……足りない」と小さな声で呟く。
「腹の奥がまだ……疼いて眠れない……」
 恥ずかしそうに、そして苛立たしげにそう言うと、スフェンはぐりぐりと頭をヴァリにすり寄せた。
「な、もう一回……」
「〜〜〜〜っ、わ、分かった……一回だけね……」
 目眩がして一瞬気が遠くなるのをぐっと堪えて、ヴァリは再度スフェンの上に覆い被さった。
「足……広げて……」
「……」
 スフェンの開いた足の間に陣取ると、彼の片足を持って下半身を密着させる。スフェン自身はまた頭をもたげ始めていて、ヴァリも体の中心に熱が集まっているのを感じていた。
 足を持つのとは反対の手をスフェンの掌に重ねると、ぎゅっと握り返される。
「痛かったら教えてよ」
「平気だって、さっきまで入ってたし……」
 促されて腰を押し進めると、スフェンが息を飲む。
「スフィ……」
「い、いから……奥まで……はっ、」
 内部が擦れる感覚にスフェンは感じ入っているようで、眦には生理的な涙が浮かんでいた。
「あっ、ゔぁりっ」
「っ……スフィっ、動くよ」
 初めは緩やかに、そして次第に激しく奥を穿つと、スフェンはきゅうきゅうとヴァリを締めつける。
「……っ!〜〜♡!」
 ヴァリはスフェンの気持ちが良いところを知り尽くしている。浅いところから大きくスライドさせて一突きすると、喘ぎとも鳴き声とも思える声をスフェンは発した。
「あ"っ、く、あぁっ」
 熱く蕩けた中に包まれて、ヴァリも快感に腰が止まらなかった。
 向き合ったスフェンと目が合ったので、どちらからとも知れず自然と口づけを交わす。多幸感に浸りながらの情事はより体の性感を高め、二人はその快楽に身を任せた。
「い、スフィっ、出そっ」
「くっ、あ、そのままっ」
 ヴァリは先程同様に外へ出そうとしたが、スフェンがそれを拒否した。繋いだ手をガッチリ握り締め、もう片方の腕もヴァリを抱きしめて離そうとしない。
「……っ」
 耐えきれずに白濁を中へ注ぐと、スフェンの青い目がパッと見開かれる。続くように彼の体がビクンと大きく跳ねて、達した時のように内部の肉壁が収縮した。
「……………ぁ……」
 どうやらこちらも達したようで、スフェンは恍惚とした表情でか細い吐息を吐き出している。
 ゆっくりと引き抜くと、スフェンの太腿の内側を白く濁った体液が伝っていた。後でかき出さなくては腹を壊してしまうなとこの期に及んでヴァリが心配していると、へなへなと横たわっていたスフェンが徐に上体を起こした。
「……す、スフィ?」
 未だ快感の余韻を引きずる体でヴァリを抱き締めると、息を切らしながらもこう言った。


「なあ…………まだイけるか?」





 朝の気配を感じながら、ヴァリは力の入らない体をベッドに放り出していた。文字通り精気の失せた様子で、寝室の天井を見上げている。
「言っておくが、いつもはこんな風じゃないからな」
 その隣ではやけに肌艶の良さそうなスフェンが朝から元気に朝食のパンや果物を摘んでいた。ベッドサイドに置いた牛乳を飲むと、心底美味いとでも言いたげに頬を緩めている。
「うん……うん……分かった。……分かったから、次発情期がきたら真っ先にオレに教えてね……」
 恐ろしいことにあの後さらに行為は続いた。もう何も出ないだろうと宥めたがスフェンは止まらなかったのだ。
 最近はヴァリのテクニックで何度も先にスフェンをイかせて体力を奪う作戦で凌いでいたので忘れていたが、彼の体力が底無しにある事をこの日久しぶりに思い出した。